2009年9月29日火曜日

「連合赤軍『あさま山荘』事件―実戦『危機管理』」



浅間山荘を包囲した警察幹部の回想記、ということになっているのだが、実際に起きた事件に題材をとった単なるアクション小説と思ったほうがいい。本人が当時どういう役割を演じた(と思っている)かについての情報はきわめて豊富だが、実際に何が起きていたのかはさっぱりわからない。これほどのページ数を費やしながら、ここまで超主観的な状況描写を続ける神経は並ではない。

本書が最初に出版されたのは1996年であるが、その頃には敵方の坂口弘や永田洋子の手記も出版されていた。しかし不思議なことに、著者はこれらの本を読んだ形跡が全くない。ひたすら主観的思いを書き連ねるだけである。にも関わらず、時に記述は非常に細かい。たとえばこんな調子だ。

「内ポケットには香港以来使い込んだパーカーの万年筆と七二年版能率手帳。左手首ではロレックス・オイスターパーペチュアルのブラックフェイスが時を刻んでいる。こいつは香港領事時代、一か月分の俸給にあたる大枚、米貨850ドルをはたいて、分割払いで買ったものだ。」(p.44)

これが、3名の死者を出したこの大事件を記述する本の、第1章に出てくるのである。私はこれを「不真面目」と感じた。残念ながらこの「不真面目な饒舌」は最後まで改まることはない。山荘に持ち込まれたと想定された鉄パイプ爆弾に関する記述はこんな感じだ。

「若草山で鉄パイプ爆弾1発を押収しましたが、かなり強力な爆弾でして、直径4.9センチ、長さ5.8センチ、重量324グラム。両端をゴム年度で詰め、導火線は4.5センチ、中のダイナマイトは72グラム、上下に八号散弾54グラム。」(p.128)

これが丸山参事官の会話中の言葉として出てくるのだが、もちろんこんな詳細の数値を記憶しているわけはないので、手元の警察資料を見ながら適当に会話を仕立てているがバレバレである。本書に出てくる会話文のすべてはこんな調子であり、そのような体裁でもって「民族主義」などと悪し様に言われた長野県警関係者の不愉快さは察するに余りある。

実際、これを読んだ県警関係者は激怒し、本書が映画化される際には関係者の協力は一切得られなかったと聞く(週刊誌に何度か記事が載ったので記憶している方も多かろう)。さらに、敵方の坂口弘からも、無関係の爆弾事件と関係付けられたかどで訴えられ、著者の敗訴が確定している。警備担当幹部にして、新左翼運動に関する知識の不正確さで訴えられるとは、失態としか言いようがない。

最後に、これは言ってはいけないことなのかもしれないが、千名以上の警察官を動員しながら、部下を2名も死なせた指揮官が、これほど誇らしげに事件を語るのは、著者のある種の人格を表しているように思えるのは私だけだろうか。

★☆☆☆☆ 連合赤軍『あさま山荘』事件―実戦『危機管理』
  • 佐々淳行
  • 文春文庫
  • 1999

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