2009年9月27日日曜日

「重力と力学的世界―古典としての古典力学」


名著。今は科学的精神の権化であるように思われている重力理論が、実は昔は錬金術同様に胡散臭い存在に思われていたというのが話の中心。解析力学のあまりの抽象ぶりを怪訝に思った物理学生なら、楽しんで読めると思う。現在の視点で過去の理論を決め付ける愚に触れつつも、トマス・クーンの寂しい相対主義(「パラダイム論」※)を遥かに越えた高みに読者をいざなう。
※トマス・クーン、「科学革命の構造」参照。

予備校講師として、著者とは一時期同僚だったことがある。一度授業を見学させてもらった時、火を吐くような「知性の叛乱」の調子とはまるで対照的に、学生相手にやたらと腰低く懇切きわまる調子で説明をしていた姿が印象深い。

最近、磁力理論の変遷も加えて更に完成度を高めた版が大いに売れているようだが、明らかに的を外した書評も多い。この種の本を読み切るだけの知的強靭さを持った人間は今の文壇にはほとんどいないのかもしれない。著者のいる高みと、マスメディアの知性との間の距離は、ほとんど絶望的に大きい。
(本稿初出 2004/11/01)


★★★★★ 重力と力学的世界―古典としての古典力学
  • 山本義隆
  • 現代数学社
  • 1981

1 件のコメント:

  1. 先生の読書はとても興味深い選択をされていますね。思わずコメントしてしまいます。昭和57年山本先生の授業をもぐりで受けました。駿台第2校舎での山本先生の授業は常に学生がすずなりクラスの後ろはもちろん、横のろうか、黒板前の床に座ってまで生徒がいました。メガネの奥の鋭い眼光がいまも鮮明に脳裏に浮かびあがります。一生に一度だけの貴重なめぐりあいです。古典を丹念に読んで精査していく目力、背中力、首力に敬服します。
    フーコーの「監獄の誕生」は日本訳がありますが、山本先生の著書にもせめて英訳があればと思います。

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