2009年9月27日日曜日

「ザ・ビーチ (特別編) [DVD]」

レオナルド・ディカプリオが、タイを舞台に、楽園を探す心の旅を描いた物語。ディカプリオの前作はあの傑作『タイタニック』であり、彼としてはラブストーリーの二枚目主人公との評価が定着することを嫌ったのであろう、あえて晦渋な文学的作品を選んだものと見える。

主題は、日常と非日常(もしくは現実と幻想、地上と天国)という2つの世界の対比である。タイに旅に来たディカプリオは、弛緩した日常に倦んでいる。そこで彼は夢の楽園の話を聞きつける。それが物語の始まりだ。今の世界とは別の、アナザーワールド。共同体の女主人公の二面性(リーダーとしての姿とメスとしての姿)の描き方といい、豊穣と残酷を持ち合わせた海の描き方といい、すべてが幾何学的なくらいに律儀な対比に基づいている。そういう映像世界の中に、あえて「カップル+主人公」という異質な3人の組み合わせを仕込み、その暗示的な不安定さを軸にして物語は進んでいく。

文学的晦渋それ自体に価値を見出す学生が見る映画としてはいいのかもしれないが、ある程度の大人にとっては主題は退屈、表層のドラマとしても出来が悪い。映像の美しさにも特に見るべきものがない。残念なことに結末は、結局われわれには現実を生きるしかないのだ、という陳腐なメッセージで終わる。レオナルド・ディカプリオにつられてDVDを買ってしまった人たちは、実際見てて面白くないので絶賛するにもいかず、かといって、その一見知的なプロットに、つまらないと言い切っていいものか悩んだことだろう。
(本稿初出2004/05/19、一部改変)


ザ・ビーチ (特別編) [DVD]
  • ダニー・ボイル(監督)
  • レオナルド・ディカプリオ他(出演)
  • DVD発売 2008

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