著者は「ライ麦畑でつかまえて」の主人公がそのまんま大人になったような男。「ライ麦」の主人公のホールデン君は、何気なく使われる"Good luck"という決まり文句の裏の偽善に怒りを抑えられなかった。そんな調子だ。
中でも、最後の「自分の好きなことがかならず何かあるはずだ」が印象深い。これは教師が進路指導の時に生徒に使うような場面を想定している。著者は言う。仮に好きなことがあっても、それをたとえば職業として続けるためには、生まれついた才能と、そして特別の運が必要。才能も運もまったく平等なんかじゃない。人生は不条理に満ちている。
これは事実として正しいはずなのだけど、夢を信じれば必ず、なんて触れ回るヤツが確かにあまりにも多い。夢を持つことはいいと思うけど、大げさに言えば運と才能に関する絶望を前提にしない夢は、ただの空想に過ぎないと思う。その前提を認識して初めて、夢を実現するための具体的な戦略も見えてくる。自分の経験に照らしても、教師が助言してやるべきなのはむしろそういう事柄だと思う。
(本稿初出 2004/05/21、一部改訂)
★★★★★ 私の嫌いな10の言葉
- 中島義道
- 新潮文庫
- 2003
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