2009年11月14日土曜日

「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 [DVD]」


連合赤軍事件を扱った2つの映画を取り上げてゆきたい。

実録・連合赤軍は、長らく反権力の立場で映画を撮ってきたらしい若松孝二という監督の作品だ。1970年前後のニュースフィルムを使った解説的冒頭から始まり、元連合赤軍メンバーの手により公開されている書籍(『あさま山荘1972』、『兵士たちの連合赤軍』、『十六の墓標』など)に記された事実を淡々と映像化してゆく。

当然、セリフはかつての学生用語満載となるわけだが、そのほとんどは悲しく画面から浮き上がり、つくりの粗さが目立つ。特に、塩見孝也役の尊口拓とかいう俳優が「ブルジョアジー諸君!」と読み上げる場面と、 永田洋子役の並木愛枝が赤軍派と党史を公刊する際の演説の場面のヘンテコな抑揚はもはや見るに耐えず、思わず早送りしそうになったくらいだ。さらぎ徳二役の佐野史郎はその点さすがで、生硬な棒読みセリフのあふれる中、日常と革命用語の滑らかな階調を表現していた。一流のオーケストラの指揮者は、個々の演者の力量に差があったとしても、全体をひとつの有機体のようにまとめることができる。しかしこの映画には優れた指揮者が欠けている。個々の俳優の力量が無残にスクリーンに丸出しであり、下手なアンサンブルといった印象だ。

革命運動の活動家であっても、革命はあくまで全人生の一部でしかない。食事もするし買い物もしなければならない。多くは親も兄弟もいるだろう。このことから必然的に、われわれの発する言葉は、日常と何らかの意味でつながっている。ゆえ、本を読むような口調で話す、ということは狂人でもない限りありえず、政治の言葉であったとしても必ず、高揚・韜晦・逡巡、といったサイクルをその言葉のうちに持つ。その与件を共有できないという一点だけでも、監督が何を撮りたかったのか、きわめて理解に苦しむところである。

さらに納得いかないことに、「実録」のはずが、あさま山荘に立てこもった5人の一人「少年A」こと加藤元久に、警官隊の突入寸前、メンバー全員が死を覚悟した場面で、「みんな勇気がなかっただけじゃないか!」と叫ばせる(*注)。もちろんそんな事実はない。そもそも、末端の一兵士、それも16歳だかの少年が、CC(中央委員会)の坂口弘、坂東國男、吉野雅邦らに暴言を吐くということは、それまでの山岳ベースでの地獄の粛清の経緯を考えれば、想像すらしにくいことである。

*注。加藤元久は2名の兄と共に山岳ベースという「ユートピア」に赴いた。『連合赤軍少年A』の著者・加藤倫教は元久の実兄。その上の加藤能敬は非業の総括死を遂げた。

改めて言いたい。自分の映画に「実録」と銘打ったこの監督は、一体何を撮りたかったのか。

長くなったので、次項では「光の雨」を取り上げる


★★☆☆☆ 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 [DVD]
  • 出演: 坂井真紀, ARATA
  • 監督: 若松孝二
  • 2009年

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