私は普通であれば、こういうビジネス本にはあまり敬意を払わない。というのも、たいていの本は、特殊事例を過度に一般化したり、検証不可能な仮説とか方法とかを羅列しているものが多く、その結果、本全体を通して統一したメッセージを出すことができていないからだ。
ただ本書に関しては、データにあまり依拠しない文系的・定性的スタイルをとりながら、本に統一感があるという珍しい例だ。管理職の心構え、的な本の中では出色の出来といえると思う。
個々の記述はある意味常識的である。まず本書は、課長という地位が日本独特のものであり、うまく機能すれば、イノベーションの現場で大きな力を発しえることを述べる。こういうことはアメリカのMBAコースでは教えてくれないだろうから、これは本書の著者酒井氏が自分の思考の結果到達した地点なのだろう。この本の良さは、このような、受け売りでない本人の思考の成果に基づいているという点だと思う。本書の内容に統一感があるのもそのためだろう。
本書が面白いのは、上記の統一された視点から、修羅場対処法のようなものを明確に示していることだ。たとえば、政敵が現れたらほめよ(p.133)、などという助言は机上で考えてはなかなか出てこない。
また、問題社員が現れたときの対処原則に絡んで、
と著者は言い切るのだが、これもまたなかなか言えないせりふだと思う。
企業活動の目的は、企業に関係しているすべての人をできる限り満足させることにもあり、その「すべての人」の中には、問題社員も含まれています。
多少の問題があることを理由に事実上のクビにしたり、完全に無視してしまうようなら、いずれそれを悔いることになります。逆に、こうしたことをまったく罪と感じないような人間には、人の上に立つリーダーたるべき資格がないと言ってもいいでしょう。(p.143)
その他、自分の下のベテラン係長が言うことを聞かなくなった時、違法スレスレの行為を求められた時、昇進させるべき部下を選ぶ時、など、相当網羅的に著者の考えが述べられている。
「しょせん」ビジネスハウツー本なので、学問的検証に耐える統一原理のようなものはもちろん期待できないが、つい忘れがちなことを思い出させてくれるという意味で、時折手に取るのは悪くない。この意味で買って損はない。
★★★★☆ はじめての課長の教科書
- 酒井穣 (著)
- 単行本(ソフトカバー): 232ページ
- 出版社: ディスカヴァー・トゥエンティワン (2008/2/13)
- 発売日: 2008/2/13
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