まともな研究者、つまり、新しい問題設定に基づいて解決策を考え、それを他人が理解できるような形式で表現できる人、にはおそらく得るものは何もない。実際、本書には、免疫学の世界的権威の話として次のような一節がある。
ランドシュタイナーや石坂公成は、頭の中に、「きっとAという答えが出るはずだ」という仮説をはじめにもち、全体のストーリーを描いた上で、その仮説が正しいかどうかを実験で検証するという方法で研究論文を書いていた。一般的なアプローチとはまったく反対である。私はこの話を知ったとき、仮説思考は分野を超えた活用することができるのだと実感した。(第1章4節、p.45)「一般的なアプローチ」というのは、オチを考えずに漫然と仕事をこなすスタイルを言うらしいが、理系の研究業界では、そういうスタイルを奉じる人は自然と淘汰されるので、仮説思考の方が一般的なアプローチである。
しかし、言われて見れば確かに、一流大学の理系であっても、大局観なしにただデータを取る、のようなスタイルで実験をする学生も多いだろうし、いわんや、論証、ということに関する常識のない文系の人たちには、この仮説思考というのは目からウロコなのかもしれない。言ってみれば、本書を読んで感動するのはある意味でまともな知性の土台がある人で、全然感動しない人は、一流研究者の思考スタイルを身に着けている超優秀な人か、あるいはこの程度のエンタメ本すら読めない悲しい一般庶民かのどちらか、ということになる。ベンチマークにいいのかもしれない。
本書に例として出るのは、コンサルティングビジネスという、サービス業の典型のようなものなので、最近何かと話題になるサービス科学のひとつのテキストとして参考になる。
特にここで強調したいのは、仮説は必ず検証されなければならない(検証不可能な仮説を立ててはならない)、というものだ。内田氏はさすがに超一流のコンサルタントだけあって、第4章を「仮説を検証する」と銘打って、実験、分析、ディスカッション、というような方法論を提示している。
このようなことは当たり前だと思うのだが、仮説を立てっぱなしで検証のサイクルを何も考えていない「方法論」を提示するのは、割と世間ではありふれた話である。ビジネスの結果である意味フェアに評価されるコンサルタント業界と、科学的検証のプロセスを通して合意を形成する科学の世界が、ある意味つながっているというのは興味深い。
★★★☆☆ 仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法
- 内田 和成 (著)
- 単行本: 240ページ
- 出版社: 東洋経済新報社 (2006/3/31)
- 発売日: 2006/3/31
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