ふたりの会話には芝居じみた雄弁は無縁だ。強がりと含羞、ためらいと高揚、そのような正負のサイクルを繰り返しながら、しかし別れの時間は淡々とやってくる。有限の時間の中にちりばめられたそういう言葉の宝石たちは、別れの瞬間に向かって時折光を放つ。Before Sunrise。夜明けの前までは。
人間は基本的に孤独だ。我々が生きている時間の大部分、我々は無言で過ごす。恋愛映画が難しいのはそこであり、だからこそ、多くの映画は本質的に希薄な人間関係を単に濃縮する誘惑にかられ、スクリーンを芝居じみた言葉の数々で埋め尽くす。この映画には絶叫も怒号もない。死もないし事件もない。しかし我々は知っている。本当のドラマは、日常に暗号のように埋め込まれているはずなのだ。この映画が描き出したのは、いわば我々の日常に隠れているかもしれない秘密のメロディだ。美しいウィーンの街並みをバックに、単にふたりの会話を長回しで取り続けることで、このようなメロディを奏でることができるとは思ってもみなかった。すごい才能だと思う。
俳優の演技もいい。特に「セリーヌ」役のジュリー・デルピーの所作には、脚本の中に自分を溶け込ませる稀有な才能を見た。
とても魅力的な映画である。
ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 [DVD]
- 出演: イーサン・ホーク, ジュリー・デルピー
- 監督: リチャード・リンクレイター
- 販売元: ワーナー・ホーム・ビデオ
- DVD発売日: 2005/06/10
- 時間: 102 分
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