淡々とした記述の中に、無法国家北朝鮮への憤りは当然としても、「無能国家」日本への呪いが垣間見えて考えさせられる。文章や構成などよりも、その内容の痛切さにおいて星5つ。
ところで、小泉訪朝以前に、拉致問題に対し冷淡な対応をしていた人間を私は決して信用しない。たとえば、2000年ころ試みに、何人かの同僚に北朝鮮のこの悪行を話題にしたことがあった。ある人は無言の冷たい視線で私に対し、ある人は社会党の公式見解のようなことを言った。同僚には在日家庭に育ち学生時代に帰化した男もいて、この男は人間的魅力にあふれたすばらしい男だったが、彼は何も言わなかった。何も言わなかったが、後日、自分の父親の話として、金正日の発言に衝撃を受けたと語っていたから、きっと悲しい思いをいていたのだろう。
実は私自身もかつては拉致については半信半疑であった。大韓航空機事件をルポした野田峯雄の本を読んで、一時はデッチ上げと信じたこともあった。しかしその後、いろいろな情報に触れると、これをでっち上げのように言う方がどうかしていると確信するようになった。
北朝鮮が国際テロを起こす国家であることは史実に照らして100%確実である。青瓦台襲撃事件は金日成も認めた犯行であるし、ラングーン廟爆破事件は北朝鮮に対しては非同盟中立国であるビルマが北朝鮮と断交をするに至っている。その上に、大韓航空機爆破事件である。
その上、北朝鮮が拉致に関与していたことも、小泉訪朝はるか以前に確実なことであった。宇出津事件では拉致の実行犯が逮捕されている。八尾恵の「告白」という事件もあった(『謝罪します』参照)。
普通に調べれば続々出てくるこれらの事に目をつむるというのは、高校生ならいざ知らず、大学まで出た大人のすることではない。真心さえあれば北朝鮮とも友好に付き合える、ようのなことを言う同僚たちの知的怠惰に深い絶望を感じた。そしてそういう輩に限って、金正日の自白前にはそのようなことはまだ疑惑でしかなかった(したがって自分は悪くない)、などと開き直るのである。自分の頭で考えることを省略し、いつも「正解」を外から丸呑みしてきた弛緩した生き方の、何よりの証拠である。
★★★★★ 奪還―引き裂かれた二十四年
- 蓮池 透 (著)
- 文庫: 213ページ
- 出版社: 新潮社 (2006/04)
- 発売日: 2006/04(単行本初出 2003)
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