2009年11月20日金曜日

「境界性パーソナリティ障害―患者・家族を支えた実例集」、「『心の悩み」の精神医学」

ある人を絶賛していたと思っていたらしばらくして手のひらを返すように罵倒し始める、というタイプの人は回りに一人くらいいるだろう。そのいわば究極形態の人たちについての本2冊を紹介する。

精神分裂病(最近は統合失調症と呼ばれる)や鬱病といった「本物」の精神病患者と、正常人の境界にいる、という意味で、「境界性人格障害」と呼ばれる一群の人々がいる。本質的に人格のゆがみであるがゆえ、治療は困難を極める。その間に、「めくるめく信頼と罵倒」や「見捨てられ不安としがみつき」といった特有の行動パターンを見せる彼らに周囲は疲弊してゆく。

最初に紹介するのは「Dr 林のこころと脳の相談室」であまりに有名な林公一氏の「境界性パーソナリティ障害 ― 患者・家族を支えた実例集」である。サイト運営に関する氏の真摯な態度に敬意を評してアマゾンで買ったのだが、一読して後悔した。ウェブサイトの情報に付け加えるものが何もなかったからである。その上、印刷がなぜか喪中欠礼葉書のごとき薄いインクでされており、見にくいこと著しい。買わずにウェブを見るべきだった。


次が、読売新聞の「人生案内」の回答者として有名な野村総一郎氏の「『心の悩み』の精神医学」だ。これも特にこれと言ってコメントするまでもない軽くて薄い本で、典型的っぽい患者の症例を主観的に選択して、軽い感じで紹介してみせた本である。強いて挙げれば、これは林氏のサイトも紹介されているのだが、境界性人格障害の患者の周りに存在しがちな「お助けおじさん」について記述しているところがよい。

境界性人格障害は若い女性に圧倒的に多い。境界性人格障害の病理には、見捨てられ不安としがみつき、というのがある。見捨てられないために、身だしなみにも平均以上の注意を払う場合が多かろう。そういういたいけな若い女性が真剣に助けを求めてきた時、これは病理の一環だと冷静に対応できる人は多くはないはずだ。普通の人は患者の話を真に受けて、話の中の「加害者」に対して問題の解決を断固迫ったりするだろう。これが「お助けおじさん」と呼ばれる人たちである。

しかし実際には、患者は、周囲の人間に虚実織り交ぜてありとあらゆることを吹き込み、周囲が自分に親身に助けの手を差し伸べる状況を作ることに全力を傾けているだけなのである。それが境界性人格障害の病理なのだ。患者の訴えは、しばしば秘密の告白という形でなされ、それがたとえば、性的暴行を受けた、などのショッキングなものであることもしばしばである。しかしそのほとんどは作り事であり、善意の「お助けおじさん」がいくら奔走しても、問題を解決することなどできるはずもない。むしろ話の中の架空の「加害者」にも、「お助けおじさん本人」にも深い傷を残す結果となる。

だから境界性人格障害という病気は罪が重い。我々ができることは、この病理について性格な知識を持ち、患者に対して対応を統一することだけである。上記のような本を買わずとも、林氏のサイトに多くの症例があるので参考にしたい。


境界性パーソナリティ障害―患者・家族を支えた実例集
  • 林 公一 (著)
  • 単行本: 159ページ
  • 出版社: 保健同人社 (2007/12)
  • 発売日: 2007/12

「心の悩み」の精神医学 (PHP新書)
  • 野村 総一郎 (著)
  • 新書: 195ページ
  • 出版社: PHP研究所 (1998/05)
  • 発売日: 1998/05

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