2009年10月1日木曜日

「それは、うつ病ではありません!」



精神科医である著者は、精神病についての超有名サイトの管理者でもある。本書は、そのサイトに寄せられた事例を軸に、著者のコメントを付記するスタイルをとっている。その意味で、本書の内容は保健同人社の「患者・家族を支えた実例集」シリーズと大変よく似ている。どういう傾向の本か知りたければ、まずサイトに目を通すことを勧める。

本書は前著「擬態うつ病」の続編という位置づけである。淡々と擬態うつ病の存在を指摘した前著と異なり、今回はより積極的に、擬態うつ病と本物のうつ病との違いを際立たせる努力をしている。そのために「擬態」という難解な用語を避け、新たに「気分障害」という用語を使うことを提唱している。

「気分障害」の事例を集めた類書は見当たらないため、本書の社会的価値は極めて高い。決してマスコミには出ないが、うつ病を猛々しく自称する人間の処遇に困る集団は非常に多いはずである。今や社会問題とさえ言えると思う。そういう人たちの多くが本書により救われることだろう。精神科医としての良心と、社会人としての使命感のようなものが行間の各所に感じられる好著である。

基本的に読むに値する本であるが、文章のスタイルについては、他のレビューにもある通り、成功しているとは言いがたい。著者の真骨頂は、時に断定的ですらある歯切れの良い表現にあると思う。その本来の文体を捨てててしまったため、右投げの投手が左手で投げているかのような据わりの悪さを感じた。この点において星ひとつ減ずる。

★★★★☆ それは、うつ病ではありません
  • 林公一
  • 宝島社新書
  • 2009

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