本書は前著「擬態うつ病」の続編という位置づけである。淡々と擬態うつ病の存在を指摘した前著と異なり、今回はより積極的に、擬態うつ病と本物のうつ病との違いを際立たせる努力をしている。そのために「擬態」という難解な用語を避け、新たに「気分障害」という用語を使うことを提唱している。
「気分障害」の事例を集めた類書は見当たらないため、本書の社会的価値は極めて高い。決してマスコミには出ないが、うつ病を猛々しく自称する人間の処遇に困る集団は非常に多いはずである。今や社会問題とさえ言えると思う。そういう人たちの多くが本書により救われることだろう。精神科医としての良心と、社会人としての使命感のようなものが行間の各所に感じられる好著である。
基本的に読むに値する本であるが、文章のスタイルについては、他のレビューにもある通り、成功しているとは言いがたい。著者の真骨頂は、時に断定的ですらある歯切れの良い表現にあると思う。その本来の文体を捨てててしまったため、右投げの投手が左手で投げているかのような据わりの悪さを感じた。この点において星ひとつ減ずる。
★★★★☆ それは、うつ病ではありません
- 林公一
- 宝島社新書
- 2009
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