あまり中身を吟味せず本書を買ったのは、かつて読んだ坪田氏のブルーバックス・『眼の健康の科学―テクノストレスの予防から角膜移植まで』に好感を持っていたからだ。一般ウケより研究的興味を優先したなかなか硬派な本だった。研究の世界で第一線にいる緊張感がありありと感じられ、とても頼もしく思ったものだ。
しかし本書に限って言えば、得るものは多くはなかった。というのは、研究者にとっての最大の不安要因とは、自分の研究的才能そのものにあるはずなのに、本書にはその点がまったく書かれていないからだ。「母校の教授になるために」とかは、そういう本質的不安と、それに付随する生活の不安がクリアされた後の話であり、多くの非テニュアな理系研究者には、本書は勝ち組のお気楽トークに聞こえてしまうだろう。
おそらくこの点は、研究をやめても開業医として余裕でリッチに暮らせる医学部と、研究を止めたら直ちに路頭に迷う他分野との違いなのかもしれない。
- 自分に研究者としての才能がなくても、社会的に尊敬されつつ豊かな暮らしが送れる
- 自分に研究者としての才能がなければ、社会の底辺に転落するかもしれない
ということで、私の観点から言えば、真に人生設計が必要な若き研究者へ送る言葉としてより有用なのは、研究者の内的不安に正面からスポットを当てたものである。次項でそういう本について見てみよう。
- 坪田 一男 (著)
- 新書: 251ページ
- 出版社: 講談社 (2008/4/22)
- ISBN-10: 4062575965
- ISBN-13: 978-4062575966
- 発売日: 2008/4/22
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