2010年1月5日火曜日

「理系のための人生設計ガイド」


医学系の研究者を対象に、人生設計のノウハウを書いた本。著者坪田氏は、慶應大学医学部教授であり、眼科の著名な研究者である。ノーベル賞確実といわれる山中伸弥京大教授の笑顔と推薦文が載った帯と共に平積みされているとインパクト満点である。実は私もそれに釣られたクチである。内容はひたすら前向きで、ネットワーク構築術、ポスト獲得術、研究業績向上術、企業売り込み術、時間管理術、危機管理術、などのテーマごとに、著者のTipsが伝授されている。

あまり中身を吟味せず本書を買ったのは、かつて読んだ坪田氏のブルーバックス・『眼の健康の科学―テクノストレスの予防から角膜移植まで』に好感を持っていたからだ。一般ウケより研究的興味を優先したなかなか硬派な本だった。研究の世界で第一線にいる緊張感がありありと感じられ、とても頼もしく思ったものだ。

しかし本書に限って言えば、得るものは多くはなかった。というのは、研究者にとっての最大の不安要因とは、自分の研究的才能そのものにあるはずなのに、本書にはその点がまったく書かれていないからだ。「母校の教授になるために」とかは、そういう本質的不安と、それに付随する生活の不安がクリアされた後の話であり、多くの非テニュアな理系研究者には、本書は勝ち組のお気楽トークに聞こえてしまうだろう。

おそらくこの点は、研究をやめても開業医として余裕でリッチに暮らせる医学部と、研究を止めたら直ちに路頭に迷う他分野との違いなのかもしれない。
  • 自分に研究者としての才能がなくても、社会的に尊敬されつつ豊かな暮らしが送れる
  • 自分に研究者としての才能がなければ、社会の底辺に転落するかもしれない
この違いは大きい。言うなれば、医学研究者では、研究とは道楽なのであって、それをやめたとしても生活する道は開かれている。しかしそれ以外の研究者では、研究とは生活でもある。そこに悲劇があるのだ。

ということで、私の観点から言えば、真に人生設計が必要な若き研究者へ送る言葉としてより有用なのは、研究者の内的不安に正面からスポットを当てたものである。次項でそういう本について見てみよう。


  • 坪田 一男 (著)
  • 新書: 251ページ
  • 出版社: 講談社 (2008/4/22)
  • ISBN-10: 4062575965
  • ISBN-13: 978-4062575966
  • 発売日: 2008/4/22

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