2009年12月26日土曜日

「小野田寛郎 わがルバン島の30年戦争」


終戦後30年間フィリピンの山中で任務としての戦闘を継続し、そして帰国した小野田元陸軍少尉の手記。氏の生い立ち、フィリピンにて残置諜者として遊撃戦の指導を命ぜられた経緯、米軍を迎撃する苦しい戦い、3名の部下とともに山に篭った経緯、そうして旧上官の谷口元少佐から作戦終了の命令を受けるまでが生き生きと描かれる。非常に面白い。

小野田氏の意志の力はすばらしい。30年の遊撃戦の日々は、彼のそれまでの言葉に一片の嘘もないことを証明している。これは瀬島龍三のように、来た球を巧みに打つタイプの人間ではとてもまねのできないことだ。小野田氏の行動の芯は中野学校にいた時から現在に至るまで少しもぶれてはいない。これは生半可なことではない。現代の偉人であると思う。

本件については、政治的な立場によって評価は両極端に分かれよう。評価しない側は、軍国主義への加担を指摘し、30年という歳月を単に狂信の一言で片付けるだろう。しかし本書を読めば、小野田隊は、故なく戦闘を継続したわけでも、行き場をなくして放浪していたわけでもないことがわかる。ルバング島で得られた情報を彼らなりに分析して、論理的な判断として作戦を継続したのだ。

谷口元少佐から作戦終了を告げられた小野田氏は、フィリピン空軍のランクード司令官の所に赴き、軍刀を差し出しつつ投降する。しかし司令官は「軍隊における忠誠の完全な手本」などと評し、その軍刀を小野田氏に返す。日露戦争における水師宮での会見を髣髴とさせるエピソードである。フィリピン国軍への投降は、むしろ、氏の意志の力の勝利を表す輝かしい出来事であるように思える。

自分の職務と言動に責任を持つこと。小野田氏の生き方はその究極形態である。そこには世の東西を問わぬ真理を見出すことができよう。英訳版が今も広く読まれているのもそのためであろう。日本人よ、内なる義に殉ずべし。現代日本では馬鹿と言われてしまうのだろうが、人生の最期に真に心の安定を得られるのは、私の周りにもうんざりするほど棲息するオポチュニストたちでは決してないと、私は思う。


小野田寛郎  わがルバン島の30年戦争 (人間の記録 (109))
  • 小野田 寛郎 (著)
  • 単行本: 262ページ
  • 出版社: 日本図書センター (1999/12)
  • ISBN-10: 4820557696
  • ISBN-13: 978-4820557692
  • 発売日: 1999/12
  • 商品の寸法: 19 x 13.4 x 2.6 cm

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