2021年3月7日日曜日

AmazFit Band 5

中国シャオミ(小米科技、Xiaomi)の子会社のHuami (華米科技)のスマートウォッチもしくは活動量計(fitness tracker)。AmazFitは普通アメイズフィットと発音する。2021年3月現在、日本だとアマゾンで7000円くらいするようだが、アメリカでは35ドル程度で売られている。本家の日本語サイトはこちら

先日、5年ほど使ってきた iPhone 6 を iPhone 12 mini に替えた。iPhone 6は一度無償での電池交換をしたので、電池の持ちも問題なく、メール確認やメッセンジャー、あるいはカーナビなどの用途に問題なく使えていた。しかしOSの更新をAppleが止めたため、次々にソフトウェア上の不適合が発生し、業務用含む多くのソフトウェアが使えなくなってしまった。やむを得ず買い替えることにしたのだが、新しい iPhone 12 mini は、大きさも画面のきれいさもまったく iPhone 6 と同じで、自分はいったい何に $700 も払ったのか、とむなしい気持ちになった。

Apple製品を買う・買いたくなる理由は、所有に至るプロセスが高度に演出されており、それに沿って新しい製品を手にした時に、いつも高いレベルの感動を与えてくれるという点にあると思う。製品のプロモーションもパッケージも、説明書の代わりにアップルのシールが入っている素っ気ない箱の中身も、そして何より間違いなく工業デザインの最高峰と言える製品そのものも、所有の満足感という点で、アップルの右に出るものはいない。ある意味、いつもアップルの演出に乗せられるわけだが、それを後悔させない手腕はすばらしい。しかし今回、買ってむなしい気分を味わったということは、もはや iPhone という製品カテゴリに、イノベーションのジレンマの病理が見えてきたということではないか。それで、アップルの生態系から外に出られないものかと、いろいろと見ているわけである。

Band 5を買った理由はだいたい3つある。最大の理由はランニング中の心拍数の測定である。過去8年ほど、Adidas Running(旧 Runtastic)でランニングの記録をつけてきたのだが、脚力と心肺機能が徐々に低下している気がして、客観的に運動負荷を測定したい気持ちになった。それと若干関係しているのだが、第2に、Covid-19騒ぎで血中酸素濃度計の重要さを知り、その計測を気軽にしたくなったということもある。別途パルスオキシメターを購入してはあるが、運動記録器と合体していれば便利ではある。第3に、アマゾンのAlexaで電灯の制御やらをできれば便利かなと思った点である。

もちろんこれらは、Apple Watch 6 を使えば完璧にできる(酸素濃度計があるのはこのモデルだけである)。iPhone と OSレベルで統合できるので、接続だの適合性だと一切の心配はいらない。しかし2021年3月現在、Apple Watch 6は一番安いモデルでも350ドルもする。このBand 5のちょうど10倍、iPhone 本体の半分の値段を、この、18時間しか電池が持たない腕時計に費やす価値はあるのか。逆に言えば、値段が1/10で、電池の持ちが10倍のこのBand 5が十分上記の用途に使えるならば、これは完全に破壊的インパクトを持った製品と言える。私の中ではそれはApple生態系からの脱出の号砲である。


Band 5を iPhone と接続する

Band 5は、ふつう Zeppというアプリを通して接続する。Zeppへの接続は簡単で何の問題もない。必要に応じて下記の動画を見るといいだろう。このアプリは高機能だが、メニューのどこに何があるのか複雑なため、個人開発?の簡素化版 AmazTools というアプリも検討してもいいのかもしれない。


スマートウォッチはもはや腕時計単体の機能よりも、アプリを含んだ生態系の使いやすさの勝負になっている。AppleやFitbit、あるいはGarminは、ソフトウェアを作りこむことで、この点でしっかりとユーザーを囲い込んできた。AmazFitはその価格競争力から、すでにイタリヤやインドなどの多くの国で市場占有率が首位になっている。現状、Zeppにはややたどたどしい点もあるが、本家中国市場での利用者の多さも考えると、このZeppなるアプリには臨界質量(critical mass)を超えるだけの開発投資がなされることは確実で、継続的な改善が望めよう。

ランニング管理アプリとZeppを連携させる

実はこのステップが長い間の懸案であった。Adidas Running(旧 Runtastic)は非常によくできたアプリで、おそらく10年くらい前までは押しも押されぬ業界のリーダーという感じだったと思う。しかしその後、開発が停滞し、新興のStrava等に押され気味になって今に至る。現状まったく不満はないのだが、残念ながら外部機器や他アプリとの連携の幅に難がある。StravaはAmazFitないしZeppとの連携を公式にサポートしているが、2021年3月現在、Adidas Runningから接続できるのは、Apple Watch, Garmin, Polar, Suunto, Coros のGPS付きスマートウォッチだけである。やむなくStravaへの移行を決心した。

ZeppアプリからStravaを認識させること自体は簡単である。2021年3月時点で、下記の5つのアカウントを登録できる。


ここで問題が3つある。

  1. Adidas Running(旧 Runtastic)のデータをStravaに移行できるか
  2. Band 5には心拍計はあるがGPSがついてない。Band 5で心拍計測し、iPhone でGPS信号をつかまえて、ひとつのランニングデータとして統合できるか。
  3. そのGPSと心拍計測を含むランニングデータをStravaに自動で転送できるか。

第1の点について、2021年3月時点で、公式アプリを通してこれを行う方法は存在しないが、代替策が2つある。ひとつは、RunGapというアプリを介してStravaにデータを渡すことである。データ取り込みは無償だが、書き出しは4ドルないし10ドルかかる。もう一つの方法は、ここの投稿を参考に、Thoms Mielke 氏の作った変換ツールを使うことである。これは、Runtasticからダウンロードしたデータ(これはjsonファイルがZIPされたもの)を、GPS Exchange format(GPX形式)に変換するものである。一部情報が欠落するが、走ったルートの情報、時間情報などは取り込むことができる。ただし、一度に読み込めるGPXファイルは25個が上限らしいので、数百個の履歴がある場合、手作業で何10回かアップロードを続ける必要がある。

第2と第3の点について答えはYesだが、細かいコツがいろいろある。結論からいえば、次の通りである。

  • iPhone 上での準備
    • BluetoothはON(当然)にしてBand 5との接続を確認。走っているときはBand 5に加えて iPhone も腕輪方式などで身に着ける。
    • GPSを使う他のすべてのアプリを消す。バックグラウンドでも動かさない。
    • Zeppの位置情報の利用は常時許可する。
    • Zeppを開き、データの同期を済ませる。iPhoneの画面は消してもよいが、アプリ自体は動かしておく。
  • Band 5 上での操作
    • Band 5の中からWorkoutを選び、そこでRunningを起動する。
      • iPhone上の Zepp app や Strava で記録開始をしないこと。
    • その際、Band 5上で、位置情報を認識したことを確認する(認識すると振動する)。
      • iPhone上でZeppが動いていないとGPSをつかまないようなので注意。
    • ゴールに着いたら、Band 5 上でRunningを終了する
      • 画面下部をタップして画面を出し、長押しする。
  • Band 5上で運動を終了させたら、携帯を開いてZeppとデータを同期する。
    • 位置情報と心拍情報が記録されていることを確認する。
    • Stravaには自動的に転送がなされる。

iPhone 上でStravaで運動を記録すると、当然、心拍計としてのBand 5は認識されないので、位置情報しか記録できない。心拍情報だけをStravaに別途読み込む方法も探したがどうやらなさそうである。また、Stravaには、Bluetoothでの転送機能を持つ心拍計を登録する機能があるが、それではBand 5は認識できなさそうである(おそらくBand 5をiPhone本体とBluetooth接続してしまうと、別途Strava側で認識できないのだと思うがよくわからない)。一方、 iPhone 上のZeppを使い運動を記録することもしてみたが、たまたまかもしれないが、心拍が記録されないという問題が発生した。

ということで、Band 5上で、iPhoneのGPSを認識させた上で運動を記録するのが最善(かつおそらく唯一の)方法のようである。なお、Band 5では、転送できるデータの項目数に限りがあるようで、心拍計を動かした場合、歩数計などの情報は転送されないようである。逆に、心拍情報がない場合には歩幅などの情報が転送されるようである。この点は何か不具合なのか仕様なのか、いずれにしても改善が待たれる。


心拍計、血中酸素濃度はおおむね正確

WesKnowsというYoutube チャンネルで詳しい計測結果が紹介されている。下記はこの動画からのスクリーンショット。


黄色い線がBand 5で、赤い線が胸に直接つけるタイプの心拍計。この程度の誤差であれば、運動記録器として何の問題もない。別途購入した安いパルスオキシメターで測っても心拍計はほぼ正確である。

一方、血中酸素濃度については、机に座って、腕を机に置いた状態で計測すると、パルスオキシメターとたいていの場合ほぼ一致する。違うとしてもたかだか数値で1くらいである。価格10倍のApple Watch 6 の場合、"mostly useless" などと言われているが、少なくともこのBand 5については十分有用だと思う。しかしこれまで数回、たとえば日光を横から浴びているときとか、寒くて手がかじかんでいるとき、装着状態がふだんと違うときなどに、値が低めに出ることもあった。基本的に信頼できるというのが私の印象だが、いつどのような場合に誤差が生じがちかは自分で経験の経験から判断した方がよさそうである。

通知機能とAlexa

iPhoneの通知機能がONになっている限り、任意の通知をBand 5に転送できる。私の環境ではデフォルトで次のような項目がある。メール特有の項目はないが、通知を受けたければ末尾の Other をONにする。

Band 5にはスピーカーがないので、通知は振動で来る。たとえば電話の場合、断続的にジジ・ジジ・ジジと振動が起きるのですぐわかる。電話に出ることはできないが、留守電に答えさせることはできる。会議などカレンダーの通知も振動で来る。音ではなくて振動での通知は思った以上に有用だと思った。まず、音と違い精神をかき乱される感じがしない。また、在宅勤務では自分の部屋から出て家事をしている場合もあるだろうが、例えば洗濯やら炒め物やらをしていて、携帯電話を持っていないか、騒音で通知音が聞こえない場合も、この軽いバンドを腕につけておけば安心である。通知の際、画面上に誰からの電話か、など要約情報が出るので、その場で重要度が確認ができる。ただ、画面が小さいため、腕を近づけて読まないと文字が小さすぎて読めないというのは確かで、画面の大きい上位機種が欲しくなるところである。

Alexaも、Amazonのアカウントを接続すれば使える(2021年3月時点では、アメリカのAmazon.comに限られるようであるが詳細は知らない)。電灯のON-OFFもできるし、簡単な(英語の)質問(「How far is Tokyo, Japan, from NY? 」など)もできる。ただし、アマゾンのアカウントの仕様上?、ある程度時間が経つと再度ログインしないと認識されなくなってしまうようで、ほとんどの場合、Alexaにはつながらずじまいだった。Alexaは iPhone上のアプリもあり、そちらの方が立ち上げの時間は短いし、機能も多い。わざわざ小さな腕時計でAlexaを呼ぶ必然性もなく、結局使わなくなってしまった。使えることは使えるが、Alexaには期待しない方がいいかも知れない。

電池の持ちとその他の機能

私の場合、Apple Watchをこれまで避けてきたのは、高すぎる値段もあるが、1日しか電池が持たないという事実が最大の原因であった。私の持っている自動巻きの機械式腕時計ですら、2日くらいは動いている。それよりも短いというのは話にならない。この点を認識して、たとえばガーミン社では最近太陽電池を組み込んだ製品を出したりしている。しかしいかんせん高い。やはりBand 5の10倍という桁である。

米国企業に囲い込まれている米国市場ではあまり知られていないが、この点の技術革新はすでに中国で起こっている。中国におけるウェラブルデバイス市場で首位のHuawei(華為技術)は2018年にGoogle のWear OSをやめて独自開発のLite OSに移ることを発表した。同様に、Huami製のスマートウォッチも独自開発OSとチップを統合した黄山2号(Huangshan-2)というプラットフォーム上に開発されている。報道()によれば深層学習専用チップを含んだ高度なもので、それが低消費電力と高性能を両立させる鍵らしい。

実際、Sleep breathing quality monitoring をONにしなければ、一晩つけっぱなしでもほとんど電池が減ることはなく、宣伝の通り2週間くらいは持ちそうである。




その他、1週間ほど使ってみて、便利だと思った機能を羅列すると次のような感じである。
  • 天気予報。PC上でブラウザを立ち上げたり、アレクサにわざわざ声で質問するより、パッとBand 5をスワイプした方が楽である。
  • 睡眠記録機能。電池の持ちに不安がないので、夜もつけっぱなしにしているが、寝た時間などが記録されるのは、自分の健康についての認知を高めるのに有用である。寝入り時刻、起床時刻の測定は正確なように思える。
  • ランニング中のポッドキャストの制御。私の持っているBluetoothのヘッドフォンでは、「次の曲に行く」という制御ができなかった(または、やりにくかった)。そのため、つまらないポッドキャストを延々聞き続けるという苦痛を味わったことも多い。もちろん立ち止まって携帯電話上で制御することはできるのだが、時間を測っている以上、ラップを乱したくなかった。腕時計上でそれができるようになったのはうれしい。

まとめ

以上要点をまとめる。

  • よい点
    • 価格競争力。アメリカでは Apple Watch 6の1/10。
    • 電池持続期間。週2回のランニング、毎日の体操、睡眠トラッキング、をしても、2週間ほど充電せずにすみそう。
    • StravaおよびApple Healthとの自動連携。
    • スマートウォッチとしての基本機能(十分正確な心拍計と血中酸素濃度計、メール・電話・カレンダー等の通知と確認、音楽やカメラの簡単な制御、時計表示デザインの変更機能、など)
  • 将来に期待する点
    • 携帯アプリ Zepp のメニューが複雑でどこに何があるのかわかりにくい。
    • Alexaの接続の安定性が低い。
    • バンドが外れやすい。素材、薄さはよいと思うが、バンドの先端が寝ているときや走っているときにものに触れて外れることがある。

冒頭に述べた問い、すなわち、Band 5が通常のスマートウォッチとしての使用に耐えるか、という問いへの答えは、間違いなくYesである。Zeppアプリはまだ発展途上のように見えるが、それでも、Stravaとの連携、Apple Healthとの連携はスムースで、活動量計としては現時点でまったく問題ない。Appleが有効な運動記録アプリを持っていない以上、かならず何か外部アプリに頼らざるを得ない。もし運動記録がスマートウォッチの主たる目的なら、OSレベルでの統合は必ずしも必要ではないし、OSレベルで統合されていなくても、電話やメールの通知、音楽の制御は可能である。

さらに広く、睡眠管理含む健康管理器としての用途なら、睡眠ログを取る以上は、1週間程度の電池寿命は必須となる。腕に着けている間は充電できないためである。この点において、Apple Watchおよびその類似製品は実用性を欠くと言わざるを得ない。値段が1/10で、電池が10倍持ち、機能が同等、というのではもう競争にならない。OSレベルでの統合は確かに快適であるが、ほとんどの人にとって、それに10倍の値段を払う価値はないと思う。

上に述べた通り、市場占有率の観点でAmazFitは順調に成長しており、間もなくApple Watchを凌駕する存在になる可能性が高い。驚異的な価格競争力については言うまでもなく、頻繁な充電から人々を解放することで、AmazFitが、スマートウォッチという製品カテゴリにおいてDisruption(破壊的インパクト)をもたらしたのは明らかである。国外においては巨人Appleに、国内においては半官企業Huaweiに果敢に挑戦し、この技術革新を生じせしめた小米科技 Xiaomi および華米科技 Huami は尊敬に値する企業だと思う。HuamiはHuami AI Research InstituteというAIの研究所を持っているらしい。輝く未来を持つであろう企業で、このような優れた製品から得られるデータを用いAIのアルゴリズムを研究する技術者は幸せである。


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