2012年12月29日土曜日

Kindle Paperwhite

2012年11月に発売されたアマゾンの電子書籍リーダー(Amazonへのリンク)。発表から約2ヶ月、2012年の年末になり、ようやくWeb上でも「在庫あり」となった。量販店でも今では入手容易である。インターネット上のレビューも多く見受けられるが、提灯記事か、実地に使っているのかいないのかよくわからない浅い記事が多いので、あえて感想を書いてみる。

購入前に私が知りたかったのは、「Kindleは日本語書籍の実用的なリーダーになりえるのか・iPadに加えてKindleを買う意味があるのか」ということだ。結論から言えば次のようになる。
  • 屋外での使用時を除いて、Kindle Paperwhite の文字の見易さは Retinaディスプレイを備えたiPadよりかなり劣る。
  • しかし携帯性は大きく勝るため、持ち歩き用の「劣化版 iPad 」としてなら買う意味がある。

文字を電子リーダーで読む場合、最も重要なのは解像度とコントラストである。画素が活字の輪郭を崩してはならない。そしてその輪郭は、背景から浮き上がるように表示されなければならない。下記に、KindleとiPad(Retinaディスプレイを搭載した第3世代)の比較を示す。全体的にKindleはぼんやりした感じになっていることがわかる。画面も小さいため速読性に劣り、難しい内容を考えながら読むというより、本に身を預けて内容を消費する、といった読み方にふさわしいかもしれない。

左: Kindle Paperwhite、右: iPad 第3世代

上記は英語の書籍だが、日本語の場合、画数の多い漢字やふりがながあるので、さらに条件は過酷になる。iPhoneで撮った汚い写真なのであまり違いがわからないかもしれないが、下記に示すとおり、kindle では昔の活版印刷のようにルビがかすれがちであり、何より、よほど強い外光の下で見ない限り、文字のコントラストが低く、読んでいて目が疲れる(なお、iPadの写真で見える格子状の模様はモアレ縞。画素の大きさを示しているわけではない)。バックライトの輝度を上げても、コントラストの低さはいかんともしがたい。明るい屋外で見るのでなければ、iPadはKindleに圧勝という印象だ。

Kindle Paperwhite
iPad (第3世代)。
Kindleが出た時は、自発光でないので目が疲れない、と言っている解説が多くあったが、私の意見だと自発光かどうかは目の疲労に関係ない。重要なことは、まずは解像度とコントラストが紙の書籍並みであることと、さらに言えば、読み手が自由な姿勢を取れることである。Kindle Paperwhiteは、主にコントラストの観点で前者に難があると言わざるをえない。現状では、要するに通常の本のように、光のほうにKindleを向けて読まないと暗くて目が疲れるので、どうしても読み手の姿勢にも制約が出てしまう。

次に操作性、Wikipediaや辞書との連携性などの観点でも、KindleはiPadに劣る。たとえば、辞書を引きたい時、その反応の遅さにはややストレスを感じるし、辞書で調べられない時にインターネット検索に飛ぶ、などの芸当も、Kindleだと実用的な手間では難しい。実際、上記の写真は、河口慧海の「チベット旅行記」なのだが、地名をGoogleで調べてどういう光景なのか写真で眺める、などのいかにもマルチメディアを駆使した楽しみ方は、到底Kindleでは無理だと感じた。

それから、pdf等の、Kindleストアからの購入でない文献を閲覧するのにはKindleはまったく向いていない。私の使い方だと、数式の入った論文や書籍を閲覧するためにiPadを使うことがあるが、そういう使い方はKindleでは不可能である。Kindleにはpdfの余白をトリミングする機能がないのと、それを避けるためKindleのフォーマットに変換したくても、現状、数式や特殊文字を変換するのはとても難しいからだ。

ではどういう人にKindleは薦められるだろう。まず、外で本を読みたい人であろう。外光の下では、紙の書籍はコントラストが高すぎてむしろ読みにくく、iPadも、バックライトが太陽光に負けて見にくい。それに外の映り込みも気になる。一方、Kindleでは、外光の下では画面がまさにPaperwhiteに見え、すばらしい視認性を実現できる。散歩の時にさっと持ってゆくデバイスとして重宝しそうだ。

Kindle Paperwhite
関連して、移動中に本を読みたい人にも薦められる。満員電車だとiPadでは厳しいが、Kindleなら上着のポケットに入れておけるし、軽い。どうせ電車の中では集中を要するような読み方はできないので、視認性が多少劣っても問題ない。電池の持ちが非常によく、充電を気にしなくてもいいのも大きい。

iPad 第3世代
加えて、テキストだけの英語の本を読むことが多い人にも、Kindleは手軽なリーダーとしておすすめだ。日本語だともう一息という感じが否めないが、英語の書籍だとKindleもかなり健闘している。コントラストの低さは気になるが、それでも日本語の明朝体で気になるシャギーやかすれはほぼ気にならない。図とか式とかがなければ実用レベルだと思う(右図)。


総合的に見て、Kindleは、ベストセラーを手軽に消費する装置として非常によくできていると思う。売れ筋の本を、あまり難しいこと考えずに、いわば言われるがままに順繰りにページを送ってゆくような読み方。自分で作ったpdfを読みたいとか、じっくり机に座って内容を詳しく検討しながら読みたいとか、マニュアルや辞書のように、大量の情報を行きつ戻りつ眺めたいとか、そういう使い方には向いていない。だから私個人にとっては、Kindleはあくまで劣化版Retina iPadに過ぎない。

しかしそれでも、この、使い方によっては間違いなく紙の書籍の代替となる読書体験を提供できるKindleという製品の、いわば歴史的意味というものを考えてみるのは意味がある。おそらく、Kindleの前では、読書というものに過剰な意味づけをせず、知的探求とは直接関係のない、単なる情報の消費プロセスとして捉えるべきなのかもしれない。これは一見微妙な差異に見えるが、そこを割り切れるかどうかは大きい。読書の私的・知的側面に重きを置いて快適なリーダーを作りこむという方向と、Kindle ストアを介して、情報消費のための大規模なエコシステムを構築するという方向は、似て非なるものである。実は電子書籍リーダーという分野を開拓したのは日本企業であった。また、アメリカの市場の動向から、電子書籍が将来、紙の書籍を圧する存在になることは、もう3年も前からわかっていた。そうして3年前の時点で予想されていた通りのやり方で、Amazonという巨人が現れ、日本の電子書籍市場を制圧しようとしている。おそらく、日本の関係者もとっくにわかっていただろう、この戦いが、情報の大衆的消費のためのプラットフォームをめぐる争いであることを。しかしこの国には、この既視感あふれる敗北の物語を止める力のあるプレイヤーは出なかったのである。


Kindle Paperwhite
  • ディスプレイ
    ディスプレイサイズ6インチ、解像度212ppi、特許取得済み内蔵型ライト、フォント最適化技術、16諧調グレースケール 
  • サイズ
    169 mm x 117 mm x 9.1 mm 
  • 重量
    213グラム
  • システム要件 ワイヤレス接続対応、コンテンツのダウンロード時にPC不要 
  • 容量
    2 GB (使用可能領域約1.25 GB) 
  • バッテリー
    明るさ設定10、ワイヤレス接続オフで1日30分使用した場合、1回の充電で最大8週間利用可能
  • 充電時間
    PCからUSB経由で充電で約4時間 
  • 対応ファイルフォーマット
    Kindle(AZW3)、TXT、PDF、保護されていないMOBI、PRCに対応。HTML、DOC、DOCX、JPEG、GIF、PNG、BMPは変換して対応 
  • 同梱内容
    Kindle Paperwhite、USB 2.0充電ケーブル、保証書、スタートガイド

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