2009年12月27日日曜日

「大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇」


著者は陸軍大学校を出て大本営情報課の若手参謀であった人物で、戦後は自衛隊に入り、情報戦のプロとして西ドイツ駐在武官などを歴任する。この回想記全体を通して、インテリジェンス(諜報活動)についての日本国の貧しい現実を、具体的事例を元に指摘している。先の大戦について書かれたものの中で出色の出来である。面白い。

著者はその情報解析能力から「マッカーサー参謀」と呼ばれていたそうである。米軍の行動を見事に予測し言い当てるからである。などと書くと、旧日本軍にも立派な情報解析部隊があったように聞こえるが事実は真逆である。信じがたいことに、昭和18年11月に至るまで、敵米軍の作戦・戦術研究を専門に行う部署は大本営にはなかったのだ(p.59)!

堀は上司の杉田一次大佐(当時大本営情報部英米課課長)のサポートを受けて米軍の戦術の研究を重ね、昭和19年9月に「敵軍戦法早わかり」というレポートを完成させ前線に配布する(p.152)。しかし時すでに遅しであった。

戦後堀は乞われて自衛隊に入り、諜報関係のプロとして活躍する。諜報と言ってもそのような専門部隊などはなく、基本的に公開されている情報を分析するだけである。西ドイツ駐在武官として活躍するが、帰国後、シビリアン・コントロールの名の下で機能不全となっている自衛隊の現実に絶望して、53歳にて自衛隊を辞した(p.326)。最近の田母神元空将をめぐる騒動などから見ると、堀のような本物が辞めざるをえないような自衛隊および日本国政府の悲惨な現実は、今に至るまでほとんど変わっていないようである。嘆かわしいことである。

不完全情報下での意志決定をより確実なものに近づけるための方法論、という意味では、インテリジェンスの事例を詳細に記した本書は第一級のビジネス書にもなりえる。鍵は想像力と創造力である。ビジネススクール流の「効率のよい」アプローチとは逆からのアプローチとして示唆が大きいのではないかと思う。



大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

  • 堀 栄三 (著)
  • 文庫: 348ページ
  • 出版社: 文藝春秋 (1996/05)
  • ISBN-10: 4167274027
  • ISBN-13: 978-4167274023
  • 発売日: 1996/05

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