2024年8月17日土曜日

電気自動車はハイブリッド車より魅力的か

 パンデミックの際に生じた物資供給網の問題から、自動車の価格はパンデミック前の4割から5割高い状況が続いていました。2024年になり、価格上昇が半分程度に圧縮されたこともあり、いろんな車の仕様を調べていました。

当然電気自動車も検討対象に挙がりました。テスラのウェブサイトに行くとアメリカで人気のあるコンパクトSUVの Model Y が、34,000ドルなどと書いており、一時期はこの2倍くらいだった記憶もあるので、お、と一瞬思ったのですが、これは連邦および州からの税金控除による 8,000 ドルと、不要になるであろうガソリン代 6,000ドルを含んだ額で、実は支払額自体は 48,000ドル。高級車であることには変わりありません。

このガソリン代の差額 6,000ドルがどうも大きすぎる気がしたので、どういう計算なのかと調べてみると、結構意外なことが分かりました。結論から言えば、アメリカの主要都市圏(ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルス、サンフランシスコなど)では、燃費面から見た電気自動車の経済的利得はほぼないということです。これまで燃費は電気自動車が圧倒的に有利、という宣伝が当たり前のようになされてきましたが、事実と違うということです。あとは、充電にまつわる不利益・高い車両価格と、排気ガスを出さないという利益をどう比較するかという話になるかと思いますが、私の結論は、上記都市部に住む人の最適解はハイブリッド車である、というものです。



話を戻して、テスラの計算根拠を見てみましょう。この矛盾が起こる原因は、ガソリン代と電気代(上のスクリーンショット参照)が実勢値を反映していないということです。テスラのウェブサイトでは、NY州の節税額を計算に入れながら、NY州ではなく全米平均の電気代を使うというおかしなことをしています。主要都市部での電気代とガソリン代は米国労働省のページから参照できます。それによるとニューヨークは204年7月の平均で 0.288ドル/kWh です(全米平均は 0.178)。電気代には supply charge と delivery charge、それに system charge という3つがあり、私の住んでいるところでは delivery chargeがとても高く、合計で 0.31ドルくらいでした。つまりテスラは、私の地域での実勢値の半分くらいの値を使っているということです。NY市内の充電ステーションを使った場合さらに高く、0.5ドル/kWhくらいになるようです。

一方、ガソリン代ですが、これは近所では 1ガロン当たり3.5ドルくらい。テスラの見積もりは高すぎ、つまり、電気代は極端に安く、ガソリン代は妙に高く、電気自動車に大変有利な計算をしていることが分かります。そもそも、電気自動車と比べるべきは、内燃機関車の中での最善の選択肢であるハイブリッド車でしょう。


では、これらの数値(電気代 0.3 ドル/kWHh、ガソリン代 3.5 ドル/ガロン)を入れて、年間10,000マイル走る前提で年間のコストを計算したらどうなるでしょうか。

米国環境省が、fueleconomy.gov という燃費比較の便利なサイトを公開しています。もちろん車種によって燃費も違うので、ここではテスラモデルY、RAV4 ハイブリッド、カローラハイブリッドの3つを比べてみます。結果は下記のとおりです(直リンク)。


枠で囲まれた数字はいわゆるMPG (miles per gallon)で、アメリカにおける燃費の指標です。電気自動車の場合は MPGe と言って、ガソリンに換算した値が出ていますが、これはエネルギーの観点での等価値で、コストは無関係。したがって電気自動車に関してはほぼ無意味な値です。

そこで年間の燃料代(annual fuel cost)というところを見ると、テスラは 850ドル、Rav4 は900ドル、カローラは700ドルです。すなわち、NY地区では、テスラの燃料代は RAV4 と大差なく、むしろカローラに負けています。充電にまつわるストレス(range anxiety などとアメリカでは呼ばれます)や時間コスト、さらに車両価格の安さを考えれば、ハイブリッド車が最善の選択肢であると言えるでしょう。

電気代が 0.25ドル/kWhまで下がると、テスラとカローラは同額の 700ドル、Rav4は 900ドルです。2024年7月の全米平均の0.178ドル /kWhまで下がると、それぞれ、500、900、700ドルです。5年で考えるとテスラはRav4 hybrid に比べて2,000ドルの利得になりますが、車両価格の違いはこれよりはるかに大きく、元を取ることは困難です。


ガソリン代が上がったらどうするんだ、という疑問に答えるため、最後に、過去40年くらいの、アメリカにおけるガソリン価格と電気代の変遷を見てみましょう。まずガソリン価格の変遷。市場価格をかなり敏感に反映していることが分かります。上がるかもしれないし、下がるかもしれない。



次に電気代ですが、残念ながら下方硬直性が見られ、値下がりは期待できそうにないです。再生可能エネルギーの導入が進んでいるはずが、コスト面ではあまり効果は出てないということです。いろいろ示唆的です。



電気自動車の、自分の周りに有毒ガスをまき散らさないという利点は非常にすばらしいのですが、アメリカでは半分程度の電力は天然ガスで作られますので、二酸化炭素削減への貢献は、実は言うほどでもないということは知っておいてよいでしょう。リチウムなど希少金属への依存性と採掘に伴う環境負担も懸念材料です。免税措置により政府に負担をかけているのも社会的公平性の観点で問題ありそうです。

化石燃料による発電を原子力で置き換えられたしても、電池の充電に多大な時間がかかるという不便さはどうしようもなく、電気自動車が多数派庶民の選択肢になるのは、車両価格が今の半分くらいになった時だと思います。つまり、不便だけど安い移動手段。この観点で中国製電気自動車には要注目ですが、昨今の米中関係からするに、当面アメリカでは大きな展開は期待できそうにありません。

2024年3月17日日曜日

AI研究と社会: 過去10年の振り返り

 今から20年前と10年前に、機械学習の研究コミュニティの様相についてコメントをしたことがあります。それをふとしたはずみで思い出し、ある意味定点観測として、AI研究についての2024年時点での雑感を述べます。