2012年1月15日日曜日

「仕事と子育てどっちが大変?」

ふとしたはずみで目にした読売新聞の掲示板「発言小町」に載ったトピックが興味深かったので取り上げてみる(2012年1月現在有効なリンクはここ)。タイトルの通り、子育てと仕事のどちらが大変か問うもので、このトピックについた返答は100を超え、そこそこ盛り上がったトピックとなっている。

およそ100件のうち、仕事が大変とする回答はむしろ少数派で、過半は、どっちもどっち、というような回答か、はっきりと育児が大変と答えるものである。この掲示板の会員の統計は公開されていないが、掲示板の内容から察して、圧倒的多数、おそらく90パーセント以上は女性だと思われる。そしてそのうち過半数がおそらく主婦であろう。内容から見て、育児の方が外で働くより大変だ、というのは主婦の代表的な意見のようだ。

なぜ育児の方が大変だと思うのか。その理由は驚くほど多様性がなく、ほとんどすべては下記の4つのどれかになっている。

  • 仕事はやめられるが子育てはやめられない
  • 仕事は途中で休憩があるが子育ては24時間休めない
  • 仕事は自分のペースできるが子育てはそうできない
  • 仕事は失敗しても何とかなるが子育てはそうでない

本気でこう思っているのだろうか?というのが感想であった。肉体労働としての子育てが大変なのは高々2-3年である。「子育ては24時間休めない」と言うが、最も手のかかる新生児でさえ授乳は2時間おきという程度で、それ以外の時間は眠っている(夜に双子のうちのひとりを担当して、泣いて起こされるたびミルクをあげたのはいい思い出だ)。その後は幼稚園なり保育園なり、育児を外注できる仕組みが全国的にほぼ確立している。24時間休めない、という状況がちょっと私には想像できなかった。

その上、育児は自分自身およびその未来への投資として大変意味あるものである。子どもに絶対に必要とされているという充足感、育児により果たせる共同体への責務、あたかも自分の生が継続するというような安心感、老後のある意味での保障、等々、もし苦労があったとしてもそれ見合う喜びや安心感がある、と、誰しも考えるものかと思っていた。

言うまでもなく、家族を養うための仕事には辞めるという選択肢はほぼ存在しない。仕事上の失敗が取り返しの付かない結果をもたらすリスクも高い。会社員なら解雇され家族が路頭に迷う恐怖がまずあるし、加えて、たとえば、人の安全に関係する仕事であれば刑事罰を受ける可能性すらある。医療従事者、鉄道管理者、自動車や家電の製造販売業者、食品製造業者、などなど、読売新聞の掲示板なら、そういうニュースも見ているだろうに、と思う。そういう責任を知っているから、失敗を避けるために全身全霊を投入するわけである。

時折休んだりしながら自分のペースで進められて、失敗しても責任を負わずに済むというような仕事を、普通「腰掛」と呼ぶ。「『腰掛OL』やっているより、生命を育むことは価値あります」、と言うのはもちろん正しい。しかし社会的富の源泉となる生産的活動に従事する労働を同列に対比して、主婦業を上位に置く発想はあまりに傲慢と言わざるを得ない。生産的活動がすべての基盤にあり、その上で、育児という崇高な作業を行うのである。

憂うべきは、このような公の場所に、育児は大変だ(だからそれに見合う見返りをよこせ)と言わんばかりの言説があふれかえっているという現状である。あえて言うが、おそらくは会社の末端でのルーチンワーク程度の経験しかない人間が、全世界に向けて自信満々にそう主張しているのである。これは非常に不気味なことだ。現代日本においても、主婦的身分は既婚女性の主流派である。やや古いが平成15年のデータでは、夫が正社員である世帯において、妻のおよそ8割は主婦である(パート労働者含む)。その8割の人々が、この掲示板に書かれているような不気味な信念を持ち、恥じるところがないとすれば、この国の将来に関して悲観的な気持ちになる。

救いがあるとすれば、この掲示板の読者にも、まともな人が相当数いるということだ。そのうちのひとつを下記に引用する。このすばらしい日本という国が、今後ともすばらしくあり続けることを願う。

育児は大変だけど、幸せなこと
ふみふみ 2012年1月9日 8:38 
育児は大変ですが、「仕事より大変」という視点で考えたことがありません。比較対象ではないというか。育児は、確かにやめられない。でも、「やめられないから大変」とは、全く思いません。 
私は、小学生と幼児がいて、フルタイムで働いています。育休中は、乳幼児二人いて実家も遠方だったため、今思うと大変だったなぁと思いますが、それ以上に、子供達と一緒にいられる幸せの方が勝っていました。今も多忙ですが、子供といられること自体がうれしくて、夫婦で「忙しいけれど幸せだね」と育てています。 
それから、「仕事の方が楽」というのは、働いて家族を支えている人自身が言うのはよいとしても、支えてもらっている人が言うのは失礼ではありませんか。一生懸命に仕事をしている人、「家族を一生養う」という重圧を抱えて働く人に、私は言えません。 (ユーザーID:6592335097)

5 件のコメント:

  1. 仕事と育児との比較というのは全くもって非建設的だと、私も常々思ってます。

    返信削除
  2. どちらもやってましたが、仕事の方が圧倒的にきつい。

    ①仕事をやめられる→それほどの責任を背負ってないんでしょう

    ②仕事は途中で休憩があるが子育ては24時間休めない→そんな事はない

    ③仕事は自分のペースできるが子育てはそうできない→自分のペースで出来るのはルーティンワークだけ

    ④仕事は失敗しても何とかなるが子育てはそうでない→上に登れば失敗出来ない仕事は沢山あるし、子育ても失敗出来ない事はない。

    子育てが大変と言っている方は、大した責任のある仕事に就いた事が無いか、責任のあるポジションにいても責任を感じて働いていないだけ。そんな人は「仕事」をしていないからそう感じるのでしょう。

    あと、仕事は誰かが認めてくれるって言う人いますけど、誰かに認めてもらえる程度の仕事しか出来ない人にとってはそら子育ての方が大変だと感じると思いますよ・・・

    返信削除
    返信
    1. まったく同感です。責任ある仕事をされている女性の方に、仕事についての正しい認識をもっと広めてほしいと思います。

      削除
  3. まぁ、結婚して子供出来たら辞めようかな・・ぐらいの意識で働いてきた女性(いわゆる腰掛)にとっては、家庭に入って子供何人か育てる方が圧倒的に大変だと思いますよ。

    返信削除
    返信
    1. その通りだと思います。それにしても、真に生産的な仕事をしているプロフェッショナルが尊敬されない世の中って、ちょっとまずい気がします。

      削除