2011年5月31日火曜日

ThinkPad USB トラックポイントキーボード

トラックポイント付きのUSBキーボード。ThinkPadに慣れた人はもちろん、マウスを廃止して机を広く使い人にも便利な選択肢である。

トラックポイント付きキーボードの歴史は実は長く、鍵人というサイトで昔さんざん議論したことだが、1990年代前半から、日本語キーボードとしてはたとえば5576-C01、英語版だとこちらにあるような多くの機種が知られている。歴史的に見れば本機はその延長線上にある最新機種といった位置づけになる。

むろん、質感の観点では、座屈ばね機構を備えた古き良き高級機の足元にも及ばないことは明らかで、その意味で最初から使い捨て程度の認識であった。が、触ってみて感心した。この値段で、ドライバを含めたこのクオリティは立派である。

トラックポイント付きのような「特殊」なキーボードではしばしばドライバーの不適合が起こる。本機はキーボードの刷新と共にドライバーも改良がなされたようで、こちらから取得したドライバをインストールすることで、ThinkPadはもちろんPCにおいてもスクロールボタンなどの基本機能が問題なく動作する。私の場合PC切り替え器を使っているのだが、PC切り替え器を介してもセンターボタンが完全に動作したのには驚いた。

本機は、ウルトラナビ付きの、Lenovo ThinkPlus USBトラベルキーボード 31P9490 の後継として作られたものである。このキーボードの評判は悪かった。実は私も持っていたのだが、タッチパッド下のボタンを押すたびにギシギシ音がして耐え難く、何より本質的な問題は、タイプ時に取りこぼしが多発することである。これはその筋で国際的に有名な話で、どうやらある時期まで、欠陥製品が製造されていたようである。

私としてはこれがレノボか、と一瞬思っただけで、落胆すらしなかったのだが、レノボには骨のあるエンジニアがまだ残っていたらしい。本機は、取りこぼしのような基本的すぎる性能について問題ないのはもちろん、この軽さにしては全体的にしっとり感のある丁寧なつくりで好感が持てる。ドライバについての着実な改良もすばらしい。今のThinkPadの打鍵感が嫌いでなければ、確実に有用なキーボードとなろう。理想を言えば、鉄板を底に入れるなどして、ThinkPad 600シリーズのような剛性を達成してくれれば完璧だと思われるが、昨今の状況ではこれ以上の価格にするのは難しいのだろう。

以下、読者の便宜のため、細かい参考情報を載せる。
  • ThinkPadとの接続
    • ThinkPadの外付けキーボードとして本機は最適である。夏など、特にXシリーズはパームレスト部が熱くなり不快であるが、その場合、本機と外付けディスプレイを買えば圧倒的に快適な作業環境を実現できる(新しい機種はDisplayPort経由でディスプレイにデジタル接続もできるので、視認品質が下がることはなない)。
    • ThinkVintageボタン、ボリュームボタン、マイクOn/Offボタン、音声Offボタンのすべてが動作するので、ThinkPadを使っているのとまったく変わらない作業環境が達成できる。
    • なお、当然ながら、ThinkPad以外のPCではボリュームボタン等は動作しない。
  • スクロールボタンの機能制限
    • 現在のところ、リモートデスクトップ接続だとスクロールボタンが使えない模様である。ThinkPadにおいては、tp4table.dat の修正などのTipsがよく知られているが、本機に関しては適用不可能のようである。リモート接続を多用される方は注意されたい。
  • 打鍵感
    • おおむね最近のThinkPadに準ずる。薄く、軽いため、強く叩くと指に不快な揺れを残す。往年のModel M等とは比べようもないが、それでもこの軽さにしてはバランスよく作られており、ゴム足のダンパ機能も優秀である。


レノボ・ジャパン ThinkPad USB トラックポイントキーボード(英語) 55Y9003
  • 概要
    • トラックポイント付き
    • Fnホットキー付き
    • Volume Up/Downキー、Volume Muteキー、Microphone Muteキーあり
    • キーボードの角度調整可能
  • 一般
    • 製品番号 55Y9003
    • 商品名 ThinkPad USB トラックポイントキーボード(英語)
    • ダイレクト価格: ¥6,300 (税込)*
    • キャンペーン価格: ¥5,796 (税込)*
    • 保証期間 3 年
    • 奥行き 19 mm
    • 高さ 312.8 mm
    • 幅 220 mm

2011年5月28日土曜日

iiyama ProLite E2607WS

イーヤマ(旧飯山電機)のWUXGA(1920×1200)の25.5インチ液晶ディスプレイ。

最近の大型液晶ディスプレイの価格下落はめざましい。これは主に量産効果によるものであろう。以前と異なり、家庭用テレビは液晶が主流になった。大型パネルのほとんどは、デジタル放送をそのまま(dot-by-dotで)表示できる1920×1080ドットのいわゆるフルHDという解像度を採用している。価格下落は、液晶ディスプレイの市場が、テレビ用という巨大な領域を得て爆発的に広がったためで、それは慶賀の至りなのだが、問題はこの16:9という横長サイズがPC上での作業といまひとつ相性がよくないことである。

研究なり事務処理などの実務において、A4サイズを画面上で読めるかどうかは本質的な違いである。これができないディスプレイだと紙による印刷が必須となり、プリンタを別途用意しなければならない。プリンタ自体は安くても、そのスペースや消耗品のコストをも考えれば、相当高くつくことは明らかである。つまりトータルで見て、エネルギー消費効率が悪い。したがって、A4を原寸大表示でき、なおかつそれと同等以上の作業スペースを確保できること。さらに願わくば、数十ワット以下の消費電力ですむこと。これはディスプレイに対する、エコな時代からの本質的な要請である。

本機の25.5インチ、1920×1200というスペックは、A3を原寸大表示するのに十分である。新鋭のLEDバックライト機には負けるが、最大52Wという消費電力は許容範囲である。しかも、2011年5月現在、実売最安値2万7000円程度と、驚くほど安い。スピーカーがついている点も、場所コストを考えればうれしい。

レノボ・ジャパン ThinkVision L2440p Wideモニター 4420HB2本機はかつては粗悪液晶の代名詞であったTN (Twisted Nematic) という方式の液晶を採用している。私を含め古いPCユーザーはTNに対して警戒心を抱いている場合が多い。実際、視野角についてのカタログスペックは高価なIPS液晶には劣っている。しかし、本機の視野角上下150度と、IPS液晶に典型的な178度というスペックとの違いが問題になる使い方など日常的にはほとんど想像すらできない。本機に関しても、たとえば5年前のディスプレイからの買い替えにおいて、見映えで落胆することはほとんどないだろう。実際、同じTN液晶で、本機よりも上下視野角が広いはずのレノボ ThinkVision L2440p Wideモニター をオフィスにて使っているのだが(詳細スペックはこちら)、このイーヤマよりも上下の視野角が狭いように感じる。だから、2万7000円という低価格に躊躇する理由はおそらくない。個人的にはよい買い物をしたと思った次第である。

読者の便宜のため、本機の特徴を羅列的に述べよう。
  • スピーカー
    • 背面についている。もちろん音質面ではオマケ的であるが、YouTubeを見る程度の用途には十分だろう。
  • ケーブル
  • スイッチ類
    • ディスプレイ縁の下部にあるので、ディスプレイを持ち上げるような格好でスイッチを入れる。これはやや押しにくいと思う人がいるかもしれないが、スイッチを押す際ディスプレイ位置がズレないという利点があり個人的にはベストな配置と思う。
    • 複数入力を切り替える場合、切り替えに数秒待たされるので、できるだけ避けた方がいい。ディスプレイに比べて高価であるが、素直にPC切り替え器を買って、ディスプレイとキーボードを一系統に集約した方が作業効率がよかろう。
  • 解像度
    • 1920×1200なので、(PC以外の)1920×1080のフルHD機器をつなぐと、基本的に縦が引き伸ばされる。言い換えると、ディスプレイ自体にアスペクト保持機能はない(イーヤマのサイトに明記されているように、アスペクトが保持されるのは4:3と5:4の信号だけである)
    • しかしPCとつなぐ限りにおいては、解像度の調整はPC側のビデオカードなりソフトウェアなりがやってくれるはずなので、たとえば地デジカード経由でテレビを見るのには支障はない
    • PC以外の機器、たとえばDVDプレイヤーなどをつなぐ必要があり、ディスプレイ側でフルHDのアスペクト保持回路が必要なら、たとえば三菱電機のMDT243WGIIなどのマルチメディア対応機か、1920×1080のモニタを買うべし。
  • モニタ台
    • 水平軸の周りに、10度ほど画面の下部を前方に持ち上げられるが、それ以外は固定である。垂直軸まわりの回転はできない。したがって、他人に見せるためにディスプレイを回すなどの用途には向かない(別途ターンテーブルを買う必要がある)
    • 若干足が高く、画面最下部まで10cmほどある。下向き目線でのディスプレイ配置が好みな人は目が疲れるかもしれない。
    • 汎用のディスプレイアームが取り付けられるらしいが未確認。
  • 寸法
    • 画面自体の大きさは予想通りだが、ディスプレイ面の厚さがほぼ全面にわたって10cmほどあるのがやや盲点か。小型ディスプレイから買い換える人は、寸法図をよく見て配置に注意すべし。
    • 画面が熱くなることはなく、カタログスペックの、最大52Wというのは偽りなさそうである。一方、旧機のナナオ FlexScan L567は、カタログ上は消費電力45Wなのだが、本機よりも発熱が多い気がする。


iiyama 25.5インチワイド液晶ディスプレイPro Lite E2607WS
  • メーカー型番 : PLE2607WS-B1
  • カラー : ブラック
  • 液晶サイズ : 25.5インチワイド
  • 解像度 : 1920×1200
  • 画素ピッチ : 0.2865×0.2865mm
  • 表示範囲 : 550.14×343.8mm
  • 輝度 : 300cd/m2
  • コントラスト比 : 1000 : 1(通常) 4000 : 1(ACR時)
  • 応答速度 : 2ms(G to G)
  • 視野角 : 左右85°/上80°下70°
  • 表示色 : 約1,670万色
  • 入力端子 : HDMI、HDCP機能付DVI-D、ミニD-SUB15ピン
  • スピーカー : 5W×2(アンプ付きステレオスピーカー)
  • フリーマウント : VESA規格200(100mmピッチ)×100mm対応
  • 電源 : 100V 50/60Hz
  • 消費電力 : 最大52W(省電力モード時 : 2W以下)
  • 外形寸法 : 597.5×460.5×238.0(幅×高×奥行き)
  • 重量 : 8.3kg
  • 適合規格 : VCCI-B
  • 付属品 : D-SUBミニ15ピンケーブル、DVI-Dケーブル、電源コード、オーディオケーブル、取り扱い説明書、保証書

2011年5月6日金曜日

「黒いスイス」

とかく理想化されがちなこの欧州の美しい永世中立国の黒歴史を解説した本。著者福原直樹氏は毎日新聞の記者だが、新聞記者には珍しくきちんと一次資料にあたっており、データが豊富に盛り込まれた良書である。しかも新聞記者のお家芸である当事者への直接取材がリアリティをかもし出しており、こういう記者ばかりだったらさぞかし新聞も面白かろうに、と思わせる。

第1章はスイスの半ば公的な団体がロマ(ジプシー)の子供を拉致し強制的に収容施設に隔離していたという話である。驚くべきことに拉致はつい最近、1970年代まで続き、スイス政府はこの団体に時に経費の1/4もの援助を与え、理事には大臣もしくはその経験者がついていたそうである。公式に政府が非を認めたのは1980年代後半からである。南アフリカの悪名高い人種隔離政策(アパルトヘイト)が猛烈な国際的非難の結果撤廃されたのが1994年だから、第2次大戦後の人類の恥部としてはこれと並ぶ横綱級である。

第2-3章ではユダヤ人へのホロコーストへのスイスの加担が説明される。スイス政府は系統的な殺戮こそ行わなかったが、ナチスドイツが大量殺戮を行っていることを承知で(虐殺現場の写真まで手に入れながら)国境を封鎖し、事実上ホロコーストに加担した。

ロマにしてもユダヤ人にしても、スイス政府の対応の底にある考えは同じである、と著者は指摘する。つまり、優れた民族と劣った民族がいるならば、優れた民族の生存権は、劣った民族に優先されなければならない、と。日本でも多かれ少なかれ異種排除の感情は存在するが、これに「優生学」のように学問的粉飾を凝らしたり、それこそ、ホロコーストのように産業として系統的に人種殲滅を図るという発想はちょっと思いつかない。

否、日本でも戦国時代くらいまでなら、お家断絶とか山ごと焼き討ちのようなことも行われたと思うが、「民族」という抽象的カテゴリに依拠して集団を丸ごと抹殺するという発想は難しい。もし日本にそういう発想があれば、李垠王は皇族として扱われることなく単に抹殺されただろうし、朝鮮半島なり台湾なりの人々が同格の日本市民として扱われることなどなかっただろう。

本書5章以降は、スイス社会の息の詰まるような相互監視、異分子排除ぶりが記されていて興味深い。令状を取らない盗聴。スイス国籍を取得する際の差別意識丸出しの住民投票のエピソード。明らかに日本もまた、これらの事実の底にある思想と無縁ではない。しかし少なくともスイスが理想郷ではないことだけは確かである。外国を美化し、返す刀で日本批判に転じる論理は明らかにおかしい。結局大切なのは、ある程度の多様性、開放性を確保することが国全体にとって中長期的にメリットがあるという事実である。差別か反差別か、という立論からはたいてい実りある結論は導かれない。

黒いスイス (新潮新書)

  • 福原 直樹 (著)
  • 新書: 206ページ
  • 出版社: 新潮社 (2004/03)
  • ISBN-10: 4106100592
  • ISBN-13: 978-4106100598
  • 発売日: 2004/03